アメリカ中間選挙とES細胞研究

--- 2006年11月10日

 今週7日(火)のアメリカの中間選挙では、民主党がかなりの勝利をおさめた。このことは同国におけるES細胞研究の動向に大きな影響を与える可能性がある。周知の通り、アメリカのブッシュ政権は、ES細胞研究に連邦予算を使うことを厳しく制限してきた。しかし今回の結果がその状況を変えるかもしれない。

 イギリスの週刊科学雑誌『ニューサイエンティスト』のニュース・ウェブサイトが、少し離れた位置から、アメリカの動向を以下のように伝えている。

幹細胞研究者たちは中間選挙の結果を歓迎
Stem-cell researchers welcome midterm results

11時57分、11月9日、2006年
『ニューサイエンティスト・ドットコム・ニュースサービス』
ロクサーヌ・カムシ

 火曜日〔11月7日〕の中間選挙後のアメリカの政治的展望におけるドラマティックな変化は、幹細胞研究に大きな影響をもたらしうる、と専門家たちは言う。
 最新報告によれば、胚性幹細胞〔ES細胞〕を研究する研究者たちは、有権者たちの怒りの風潮から恩恵を受ける立場にある。その怒りの風潮は、下院と上院における共和党の権力を一掃し、民主党に支配を譲り渡した、と。
 下院の議長になることになっている民主党の下院議員ナンシー・ペロシは、すでに、自分が多数派のリーダーシップをとる最初の100時間以内に、連邦予算で許される幹細胞研究の種類を拡大することを約束している。それは2007年1月に始まることになっている。
 ミズーリ州ほど幹細胞問題が熱く議論された場所はない。そこでは有権者たちが、かろうじてではあるが、民主党のクレア・マクキャスキルを、その上院議員に選出した。彼女が、自分の政策基盤における重要綱目として幹細胞研究へのサポートを打ち出した後のことである。パーキンソン病を患っている俳優マイケル・J・フォックスを起用した、マクキャスキルのキャンペーンが採用した広告は、右派のブロードキャスター、ラッシュ・リンボーが、フォックスはカメラのためにその症状を演じている、と指摘したとき、国家的な注目を集めた。後にリンボーは謝罪を余儀なくされた。
 ミズーリ州の有権者たちはまた、51パーセントという多数で、胚性幹細胞研究を規制する同州の憲法の修正を認めた。

研究の拡大

 ヒトの幹細胞を研究する、卓越した科学者を募ることを望む、カンサスシティのストワーズ医学研究所は、この結果は、そのスタッフを拡大する力を向上させるだろう、と言う。同研究所が発行した声明は、この幹細胞のイニシアティブの容認は、それが「科学的才能の最高段階をめぐって世界的に競争する」ことを手助けすることになるだろう、と言う。
「もしそれが失敗していたら、ミズーリ州は悪夢を見ていたでしょう」と、ミズーリ・コロンビア大学のマイケル・ロバーツは言う。彼は政府に認可された幹細胞株を使って、ヒト胚の発生を研究している。彼は、この結果は、同州を「より進歩的に」見えるようにし、「さらなる投資を促す」ことになる、と付け加えた。
 このミズーリの憲法修正は重要である。というのは、それは、立法者(議員)たちが、同州におけるヒト幹細胞研究を禁止する、将来の法律を可決できなくなることを意味するからである。「彼らが、私たちがミズーリでできるであろう幹細胞研究の種類について、手当たり次第に制限をかけるという、大きな懸念がありました」とセントルイス医科大学のワシントン大学のマイケル・ハワードは言う。ハワードは、マウスの胚性幹細胞を使って脊椎損傷の研究を実施している。

議会は再び試みるのか?

 マクキャスキルのような幹細胞推進政治家たちが増えた立法府は、現在、許されている以上の幹細胞株について、連邦予算を使う研究を認める法案を通そうと試みるに違いない。しかしながら、そのような法案は、3分の2という大多数を獲得する可能性は低い。3分の2という大多数は、6月に最初の幹細胞法案に対して用いられたような大統領拒否権に打ち勝つために、下院と上院の双方で求められる(「ブッシュ、科学者たちの混乱のために、幹細胞法案を拒否Bush vetoes stem cell bill, to scientists' dismay」を参照)。
「私たちは、大統領がどのように反応するか見なくてはなりません」と、幹細胞研究国際学会のラリー・ゴールドスタインは言う。「私は、彼が気を変えるだろうと考える理由を持っていません」
 しかしながら、世論調査に見られる幹細胞研究に対する人々の支持が、ブッシュが再び拒否権を行使することを妨げるだろう、と望む者もいる。「最終的には、変化のための行政機関への圧力があるでしょう」とロバーツは言う。

 一方、現地アメリカのCBSは、ES細胞研究の推進派と反対派、双方によるコマーシャル合戦の様子を、批判的に紹介している(訳文が不明な箇所があるが、ご了承を)。
 

選挙の論争が幹細胞問題を曇らせる

Election Debate Clouds Stem Cell Issue

 11月7日、2006年(WebMD) 本日の選挙は、ブッシュ大統領が、胚性幹細胞研究〔ES細胞〕への連邦予算を拡大する法案を7月に拒否して以来、初めての全国的な投票である。
 この研究に対する候補者たちのスタンスは、2つの重要な競争に重く傾いている。ワシントンにおける上院と下院の支配をめぐる政党の戦いとして。
 しかし一連のキャンペーン広告は、幹細胞研究について、それが明らかにすることよりも、多くのことを隠す傾向がある。倫理学者も支持者も同様に、この複雑な科学問題は、政党政治と政治的サウンドバイト〔ビデオからの抜粋〕のまばゆい光の中で、ほとんど目に見えない、と警告する。

幹細胞とは何か?

 幹細胞は、受精後数日以内の初期ヒト胚で見い出される。科学者たちは、身体のどんな組織にも育つ、その能力のために、それらに興味を持っている。そのことはそれらを、たとえばパーキンソン病や糖尿病といった疾病を治療するための、将来における優れた候補にしてきた。
 体性幹細胞adult stem cellは、胚性〔幹〕細胞の倫理的落とし穴の可能性を回避する。胚性幹細胞は、その獲得のためには胚の破壊が必要になるのだ。しかし胚研究を支持する科学者たちは、胚性〔幹〕細胞は体性〔幹〕細胞よりもずっと用途が広い、と言う。
 幹細胞研究はおそらく、ほとんどの有権者の心のなかでは、火曜日の、最も重要な問題ではないだろう、と、メリーランド大学の行政学教授ジェームズ・G・ギンペル博士は言う。
「これは自分たちにとって確固たる問題である、という人々は、ずっと以前から、その意見をつくりあげていたでしょう」と彼は言う。
 しかし、そのことは、幹細胞が、メリーランド州の上院選挙の最終週において大きなキャンペーン・イシューになることを妨げなかった。パーキンソン病を患っている俳優のマイケル・J・フォックスは、最近、Lt. Gov.〔?〕で共和党の指名候補マイケル・スティールが幹細胞研究に反対していることを有権者に教えるコマーシャルに出演した。
 わずか数日後、スティールのキャンペーンは、自分たちのコマーシャルを放映した。いまではテレビやラジオの電波が、スティールの姉妹で多発性硬化症患者のモニカ・ターナー博士の証言を伝えている。それはフォックスと、スティールに対する民主党の競争相手で、共和党の〔?〕ベン・カーディンを攻撃している。
「マイケル・スティールについて知るべきことがあります。彼は幹細胞研究を支持しています」とターナーはそのコマーシャルで証言する。
 この広告が述べていないことは、幹細胞論争の最も複雑な部分のうち1つの中心に位置する。
 スティールは、自分は、骨髄のような大人の供給源に由来する幹細胞をめぐる研究を支持する、と言ってきた。しかし、彼はブッシュの7月の拒否を支持した。というのは、彼は、幹細胞を得るために胚の破壊を必要とする胚研究に反対しているからだ。
「この問題における両サイドの政治家たちがそれを不適切なかたちで述べていることには、疑問の余地がありません」と、幹細胞推進グループである「医学研究推進連合」の最高責任者ショーン・ティプトンは言う。

混乱をもたらす広告

 ボストン大学の生命倫理教授で、イエスズ会の司祭であるRev. 〔?〕ジョン・J・パリスは、人々の大多数が胚研究を肯定する一方で、フォックスやスティールの広告のようなものは、幹細胞をめぐる本当の問題について、有権者に情報をほとんどもたらしていない、と言う。
「起きていることは、人々の見解が広告によってかたちづくられているということです。私は、幹細胞とは何か、本当の手がかりを人々が持っているとは思いません」と、彼は『WebMD』に語った。
 ミズーリ州ほどはっきりしているところはない、とパリスは言う。そこでは、ある投票発議ballot initiativeが、同州の憲法が胚性幹細胞の研究を許し、その研究から得られる治療法すべてへのミズーリ人のアクセスを保証するべきかどうかを決めるよう、有権者たちに問いかけた。
 その発議は、研究推進勢力とプロライフ勢力とのあいだの苦い論争を誘発した。フォックスが出演するもう1つのコマーシャルがそこで流れ、その発議と2人の上院候補者に対する、何十もの賛否両論の広告が接戦を演じた。
 反対者たちは、その発議はヒトのクローニングを促進し、女性たちに研究のための卵子を売るよう強要することになる、と言う。支持者たちは、クローニングははっきりと除外されており、同発議は新しい治療法への展望を促進することになる、と主張する。

細則

 真相のためには、有権者たちはキャンペーン広告を無視し、その代わり、その細則fine printを深く探求しなければならない。幹細胞研究とクローニングは、2つの、とても異なる物事である。
 同発議の法的言語は、ヒトを再生産することを意図したクローニングを禁止しているが、「セラピューティック・クローニング」として知られる技術を除外している。
 体細胞核移植と呼ばれるこの技術は、大人の細胞からDNAを抽出し、それをヒトの卵子へと注入することを含む。その卵子が分割すれば、それは、大人の細胞ドナーと遺伝的に同一の幹細胞をつくり出す。このことは、免疫拒絶の問題がつきまとうことに終止符を与えうる。
 ティプトンは、アンチ幹細胞勢力は、幹細胞研究とクローニングのさまざまな形態とのあいだの違いについて、「人々を混乱させることに必死になっている」と言う。
 しかし、「ミズーリ生命の権利」の最高責任者パティ・スカインは、自分のサイドの広告すべてを正確であると擁護し、もう片方のサイドを、幹細胞研究の展望を過大に宣伝している、と非難する。
「彼らは、そうした治療法が実現するだろうと主張していますが、実際のところ、彼らは1つの成功も得ていません」と彼女は言う。
 一方、パリスは不満そうに、どちらのサイドも悪く、そしてまた正しい、と言う。幹細胞の反対者たちは、自制心を失ったマッド・サイエンスという展望で人々を脅す、と彼は言う。擁護者たちは、研究の過大評価では犯罪的であり、もし〔幹細胞による〕治療法が多少なりとももたらされるとしても、それらは少なくとも今後10年にはありえないということには、めったに言及しない。
「この問題は、感情と広告費、そして自分の言い分を述べるためのカネを十分に持っている人々によって、動かされているのです」と彼は言った。

SOURCES: James Gimpel, PhD, professor of government, University of Maryland. Monica Turner, in campaign advertisement for Lt. Gov. Michael Steele. The Rev. John J. Paris, professor of bioethics, Boston College. Sean Tipton, executive director, Coalition for the Advancement of Medical Research. Patty Skain, executive director, Missouri Right to Life.

By Todd Zwillich
Reviewed by Louise Chang
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 こうしたアメリカの動向が日本にどのような影響を与えるかはいまのところわからない。しばらく注視したい。06.11.10

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